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絵日記など

雪山登山 - 甲武信岳

kobusi

「登山」 

 

以下はこの単純な2文字に秘められた、

恐ろしい魔力に取り込まれていく4人の男達の記録である。

 

 

2002年2月雪山に登ってみたいと思い、甲武信岳に挑みました。

 

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2002年2月11日

 

先日風邪をひいたと申し上げましたところ、皆様より様々な励ましのお言葉、

同情、罵声、笑いのネタ等いろいろいただき本当にありがとうございました。

様で今も風邪が残っております。その後もお話ししましたとおり、VAIOが逝きました。

電源入れっぱなしで分解し、誤ってはずしたネジを基盤に落とした瞬間「チュン」って鋭い音をたてて絶命。

100%自分の責任、正直凹みました。

 

そんなボクの状態を見かねたのか、おもしろがってか、友人達3人が一言声をかけてくれた。

「こんな時はパーっと自分の好きなことをして一気に元気を出そうぜ!」と。

こんなとっても偽善者的発言でも、今の自分には十分勇気づけられる一言だった。

ということで。明日は待ちに待った(のか?)あの場所へ向かう日。その場所というのは、山。

つまり「登山」である。

 

4人で山にチャレンジ。目的は人それぞれだが、自分は当然傷心旅行であり、そして卒業旅行でもある。

そう、今年自分は大学を卒業する。実家の愛媛で就職活動をするため、

卒業が決まる前から実家に戻り卒業式も出ない予定だ。

なのでこれが研究室の仲間と一緒に何かをするのは最後になる。

 

さて、どの山に登るかだが、日本には名前の付いている山だけでも軽く数万に上る。

しかし、僕らのすんでいる場所、時期を考えてもどうしても行ける場所は限定されてしまう。

しかも4人中3人はずぶの素人である。当然ボクも素人組。

だが困ったことに3人とも頭の中ではすでに「なんでもいただきます。」状態であった。

 

そのため半端な山では当然納得するわけもなく、検討を重ねた結果、

日本100名山の一つである甲武信岳(こぶしだけ)という山を選んだ。

最大の理由は至極簡単。この時期、このあたりでもっとも

「おいそりゃぁシロウトにはどうがんばったって無理だろう。」的な山であったからだ。

燃えないわけがない。

 

甲武信岳は高さ2475m、長野県、山梨県、埼玉県の境に位置する奥秩父連山の一つ。

甲武信ヶ岳とも呼ばれる。山頂は展望が開け、黒々とした奥秩父の山々と、

その向こうに北アルプス八ヶ岳中央アルプス南アルプス、富士山など、

日本を代表する名峰が40山以上も見ることができる。

 

ジュルリ(登りてぇぇ)。

 

もっと甲武信岳について知りたい方は こちら

ちなみにふつうに登るとだいたい5時間で登り3時間ほどで降りてくるのが一般的であるようだ。

 

夏であればの話だが・・

 

ちなみにネットで甲武信岳を調べてみると結構でてくる。

が、ほとんどが夏。とは言え「冬は雪が積もってて少々寒いくらいでしょ?」

くらいにしか思ってない素人3人組。唯一雪山の経験も豊富な蔵人いわく、

「ちょうど一週間前に標高1400mの山を1000mのところから登ったのだが、

本人以外はあまりの雪の深さに リタイヤした。

そして冬の甲武信岳は通常日帰りはしない。」というのだ。

 

 

結局集合時間は0時に決まり。当日を迎えた。

全員集合&持ち物チェック。

 

シロウト1 約5kg

シロウト2 約5kg

シロウト3 約5kg

ベテラン 15kg

 

逆になに入れてるのかききたい。

 

現時点、当然みんな元気。とりあえず全員でパソコンのボイスレコーダーに意気込みをぶち込む。

修学旅行前夜のごときはしゃぎぷりで車になだれ込み午前2時15分出発。

 

 

午前3時09分 横田基地をただ通り過ぎる。安っぽい会話に花を咲かせる。

車は高速にのり、あっというまに山梨県甲府盆地

 

午前4時38分 ファミリーマート。ここで朝食と昼食を購入。

やはり登山と言うことでおにぎりやカップラーメンなど軽いものを購入した。

澄んだ夜空の下、甲府盆地の光はひどく眩しかった。

 

 

午前5時30分 出発地到着

 

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ここで一言 

 

すでに気温-9℃   

 

えええええええええええ!

 

 

 

午前6時10分

 

漆黒の闇。

ボク達以外生き物は誰もいないのではないかと思わせるほどの静寂の中、

大きな大きな一歩を踏み出した。標高はスタート時で1200メートル。

ここから1200メートル程登るわけである。

気圧のためラーメンがぱんぱんになっていた。

まず "徳ちゃん新道"というところまで舗装されている道を20分ほどかけて歩いた。

きれいに舗装されており横目で徐々に明けていく空をみながら余裕で進む。

 

 

午前6時39分 徳ちゃん新道到着!

 

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なんだ登山とはこんなものかと言わんばかりに看板に寄りかかりポーズを決めるオレ。

雪山ってこんなもん?意外と登頂は楽なのかも。

 

午前6時42分 徳ちゃん新道出発。いくでー!

 

午前7時00分 一回目休憩。

 

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無理ぃぃぃぃ。

 

この登山のことを記したメモ帳にその時のことが書かれてある。

 

「やぼい」

 

の一言。"ば"を"ぼ"に間違えるほどたった数分間で打ちのめされたようだ。

それまでの甘ったるいボクの考えを一気に吹き飛ばすには十分の道のりだった。

道ほそ!道、急!てかこれ道?この時点での標高は1350メートル。

徳ちゃん新道入り口より100メートル登っただけなのだ。

10分ほど休憩し、出発。

 

まわりがどんどん明るくなってきた。

 

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おおおおお。

 

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午前7時40分

 

2回目休憩。標高1650メートル。日がどんどん登ってくる。

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このあたりにメモ帳にはこうかいてある

 

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「雪が深くなる」と。

 

感覚としては砂浜ダッシュをしている感覚だ。

数週間前にスキーにいったときこの雪に歓喜していた自分がとても愚かに思える。

今は単純に「動きにくくてじゃまなもの」である。

 

 

午前8時20分

 

3回目休憩。標高1850メートル

 

完全に日が昇る。ここにきて初めて視界が広がった。

後ろを向くとそこには

 

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日本一の山、富士山。

 

ぐるりとあたりを見渡す。

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絶景!

 

富士山を背にしさらに果敢に甲武信岳にチャレンジだ!

すでに気温は-10℃を下回っていたが、すごい汗!

寒がっている暇がないほどボクらの体はフル回転!

 

 

午前8時58分

 

4回目休憩。標高2030メートル。

恐ろしいペースで登っていることは確かなようだ。

そして恐ろしいペースで体力がなくなっていることも確か。

 

ん?そうだ。そういえば大切なことを忘れてた。

チョコエッグコーギーくんつれてきてた。

自分のことで精一杯で忘れてた。

ごめんよ、さぁ記念撮影だ!

 

はいチーズ。

 

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雪の上で輝いてるぜ、コーギーくん! 

 

 

ってバファリンじゃん!

 

 

意気揚々とチョコエッグのキャラクター全部持ってきたのに

そのすべてを車に忘れてきたなんてことが起こってしまうなんて・・・。

 

そんなしょんぼりする自分のそばで

先輩は無心に自身のチョコエッグワールド全開中。

 

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超無心。

 

さー、いよいよ後悔している暇なんてないぞ!

相棒(優しさ)と再出発だ!

 

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確実に雪は深くなり、

 

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普通の靴の状態ではとてもじゃなく進むことができなくなった。

 

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そこでアイゼンを装着。

 

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うむ、歩きやすい!

 

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このあたりは"シャクナゲ"という植物が大発生だ。

その昔、聖徳太子が、そのあまりの美しさにもっている尺をなげたところから"シャクナゲ"と名付けられたそうだ。

と山博士が教えてくれた。よく知ってるなぁ。

 

雪に寝っ転がり空を激写!突き抜ける青空だぜ!

 

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そうこうしているうちにさっきまで見上げてばかりいた景色が確実に開けてきた。

 

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本当に天気が良い!

 

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そしてようやく、

 

午前11時10分

 

1つ目の山、木賊山(とくさやま)に到着。約2400メートル。

ここから一度100メートルほど下り、そこから登ればゴールである甲武信岳だ。

 

えっと、100メートル下る前に重要なお知らせができてしまった。

 

オレの水、尽きた。

 

「予想以上にのどが渇くよ」

 

という山のプロのアドバイスがありながら、500mlのペットボトルで挑んだボクは、ここで敗北した。

しかし、正確に事を伝えると、水が尽きたというよりは、「凍り付いた」のほうがしっくりきそう。

現在-13℃。二度と液体に戻ることはないと理解するには十分だ!まぁ最悪雪を口に運べばすむ。

 

登り初めて5時間。そろそろ登頂が現実のものとなってきた。

ここで一つみていただきたいものがある。

 

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こちらは夏の木賊山。

 

そして以下が現在自分たちがいるところ。

 

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って深いよ!

 

 

そんなこんなで周りの景色を楽しみつつ

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午前11時30分 木賊山出発。

 

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まずは100メートル程下りそこにある小屋で昼飯。

 

とても急な斜面。とにかく下るまた下る。この登山で初めての長い下り。

あとで今度はこの急な坂を登らなきゃいけないなんてこれっぽちもシラネ!

 

この下り坂に対しコメントしたい。

 

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一番体温低くなりました。耳もげそうだった。

尾根だから風が体温奪う奪う。

 

 

午前11時45分 ようやく小屋到着。

 

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えっと一階部分全部雪なんですけど・・。

ようやく入り口見つけ中へ進入。

 

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中は毛布とか使えない暖房器具とかあってとてもいい感じ。

気温も-9℃ととても控えめな数値で好感が持てる。

おもむろに山博士がリュックから簡易コンロを出す。(なんでもはいってんな)

 

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昼食。温かいものがこんなにおいしいなんて。

カップラーメンをたいらげた。

 

 

午後0時50分出発

 

山頂に向けてアタック開始!

 

 

山頂は目の前だ。どんなに寒くても、どんなに雪が深くても全然驚かない。

もうどこにも目の前に足跡なんてなし、我々の後ろに足跡できるだけ。

ただひたすら前に進むだけだ。がんばれみんな。がんばれオレ。

 

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いままでにない急な坂道を四つん這いになって登る。

一つのミスが命取りとはまさにこのこと。

しかし、無理をした甲斐あって、きたよきたよー。

 

 

テンションバリ上がり!

 

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やっと

 

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やっと

 

 

午後1時15分 甲武信岳征服

 

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やったーーー。

 

 

 

心の底から感動した。

嬉しくて嬉しくてしょうがない。

正直涙でそうになった。

景色はちょうど尖っている部分なので360度パノラマ。

 

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景色最高!イヤッフゥ!

 

 

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ここも-13℃。

このときばかりは周りの深すぎる雪や身を切る寒さが祝福してくれいるようにさえ思えた。 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

ここからは真冬に男4人が、

2400メートルの山に登頂してちょっとアレな状態になっちゃってることを

ご了承いただいた上でご覧ください。

 

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ドーン!

 

さすが力持ち!いい体。惚れるー

 

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えへへ、バファリンー。 

 

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甲武信岳バファリンー。

 

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富士山とバファリンー。

 

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ひゃっほう2400メートルからサービスエース

 

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ラケット超持参!ボール付き。

だって今回そもそも最初友人がへこんでいるボクにこう声かけてくれた

「凹んだときはぱーとすきなことやろう」って。

じゃぁスポーツしなきゃってなぐあいにね。

たぶん真冬の甲武信岳の頂上でラケットもって雪のコートにボールをボスって打ってるやつ初めてかも。

やった初めてはいいことだ!

 

よーしまだまだー。甲武信岳(こぶしだけ)だけに

 

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拳だけ!

 

 

(ウワー)

 

 

・・・さて、下りますか。(・c_・`)

 

午後1時30分

 

そんな訳でひとしきりはしゃいだ後、下山開始。

 

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10分もかからず小屋まで降りてくる。

やはり下りは速い!足早に小屋を後にし再出発。

帰りは行き同様サクサクっと下りたい。

 

ということで 

 

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生まれて初めて遭難する。

 

(えええええええええ!)

 

理由は簡単。他の道から帰ろうとしたら進めなくなった。何故かというと「雪」。

 

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決してカメラを下向けて撮ったのではなく目線でこの高さ。

軽く1メートルを越す積雪。しかもふかふか。

もはや 歩く という行為では進むことはできず、泳ぐ に近い状態だ。

見事にテンションも下がり、あたりも薄暗く僕は本気で命の危険を感じた。

このまま進むか、あるいは引き返すか二つに一つ。

 

結局「引き返す」を選択。大幅に後れをとるもののなんとか正道に戻ることができた。

 

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(意識ぶっ飛び中っぽい自分)

 

その後も延々と続く道を下り続けた。本当にほとんど記憶なく、

 

 

午後6時00分 無事下山。 

 

もはや下半身と上半身は別個のもので、

特に下半身は自分の意志とは無関係にただひたすら動いていた。

行きはあれほど一瞬だった車から徳ちゃん新道の入り口までが恐ろしく長くつらい。

なんとか車にたどり着き出発。

 

 

午後9時

 

甲府にて温泉に入る。

 

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お帰りなさい、マイ体温。

 

温泉でた後、果てる。その後車の中で4人全員爆睡。

運転手の先輩がものすごい状態だった。何回か車が宙に浮いた。

 

日付変わって

 

午前0時30分 帰還。そして、晩飯のためいきつけのラーメン屋さんへ。

ここ6時間くらいほとんど会話なし。

 

結局午前1時00 研究室到着。

 

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こんなかんじで雪山登山は幕を閉じました。

必死で写真撮ったのに、自分のデジカメは寒さのあまりデータがすっ飛び、何も残っていませんでした。

なのでこの写真はすべて仲間からもらいました。今回は本当に疲れました。

体調もあまり良くなく、24時間起きて活動していたわけですし、

登っているとき二度と山には登りたくないなんて思ったこともありました。

しかし、今思うと結構山良いかもっておもいます。

でも、これだけつらかったにもかかわらず乗り切れたのはバカ仲間がいたからだと思います。

たしかに今回は単なる一登山にすぎないかもしれないけど、

やっぱりボクにとってはちょっとした卒業旅行になったんじゃないかなと感じています。

 

一緒に登った3人へ

 

力持ちさん

人が無限の可能性を秘めていることを教えてくれてありがとうございました。

 

山博士さん

あなたがいなければ死んでいました。冗談抜きで感謝しています。

 

先輩

その根性とふところの広さ、いつも勉強になります。

 

本当に登ってよかったです。

 

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「登山」意外といいっすよ。皆さんどうですか?

 

長々と読んでくださりありがとうございました。

 

おわり